インタビュー&コラム

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2022/12掲載
記載の情報は掲載時点のものです

GIGAスクールで整備された1人1台とクラウドの本格的な活用も、2年目に突入した。
GIGAを使うことで「授業が変わり始めた」学校もあれば、未だに箱の中で眠ったままの学校もある。
GIGA活用を成功させるためには、何から始めればよいのか。どんな力を子どもたちに育めばいいのか。
様々な学校や自治体で、教員研修の講師や指導にあたっている、教員経験もある二人の研究者にお聞きした。

GIGA「格差」の現実。

GIGAスクール構想(以下、GIGA)で整備された1人1台やクラウドの本格的活用も、2年目に突入しました。お二人は様々な学校・自治体をご覧になっていますが、どんな印象をお持ちですか?

渡邉「格差」が気になりますね。端末を毎日使っている学校もあれば、まだ「どう使えばいいの? 何から始めればいいの?」と、GIGAの入り口で迷っている学校もあります。

端末が箱に入ったまま、倉庫で眠っている学校もあると聞きます。

佐藤その一方で、GIGA活用が進んでいる学校では、授業そのものが変わり始めています。先生が学習活動を指示し、教え込む今までの授業から、子どもたち一人ひとりが自分の課題を持ち、自分で学習を進め始める授業へ、変化し始めています。

私もGIGA先進校の授業を拝見したことがありますが、「日本の学校教育が、根底から変わり始めた!」と、衝撃を受けました。

うまくいっている学校はまず校務で使い始めた。

GIGAをうまく活用できている学校の共通点は何でしょうか?

佐藤授業で使う前に、まずは校務で使い始めた学校が多いですね。朝の会議を廃止して、クラウドで伝達や情報共有したり。自分の授業を動画撮影してクラウドにアップし、他の先生にチャットでコメントをもらったり。保護者懇談会の日程調整も、「紙」を廃止。Googleフォームを使って、保護者に入力してもらっています。

校務で使ってみることで、「GIGAで何ができるか」を先生一人ひとりが体験することから始めています。

渡邉GIGAで何ができるか、先生自身が分かっていないこともあります。とある自治体の教員研修でMicrosoft Teamsを授業で使う事例を紹介したところ、「Teamsって授業でも使えるの?教育委員会との連絡でしか使ってなかった」と驚かれ、わたしもビックリしたことがあります(笑)。

佐藤校務で使ってみると、GIGAの「感覚」がつかめるんですよ。「こんなことができるんだ、これは便利だな」と実感し、「授業でも使えるかも」とアイデアがわいてくる。この「感覚」をつかむことが、GIGA活用の第一歩。スマホを使ったことのない人に、いくら便利さを説明してもわかってもらえませんよね。それと同じです。

もう一点、GIGA活用に成功している学校は、子ども用の学習アプリをほとんど使っていません。Google Workspace for Education のような、一般向けの汎用アプリを、子どもも先生も使っています。子ども用学習アプリは確かに子どもでも使いやすくて便利ですが…卒業して社会に出たら使いませんよね?一般的な汎用アプリを使って仕事や勉強をしますよね。ならば、今のうちから汎用アプリに慣れておいた方が、子どものためになる。子ども用学習アプリの使い方を、先生が学ぶ手間も省ける。GIGA先進校は、そこまで考えています。

もちろん校務支援システムのように校務限定のアプリもありますが、図1のように、先生・子ども共通のアプリの部分を増やしていくと、先生は楽になり、活用が進みます。

図1:教員に負担がかかるICT環境の構造

渡邉わたしが教員研修の講師をする時は、「先生方にクラウドを楽しんでもらおう」を心がけています。

たとえば表計算アプリの共同編集で、「夏と聞いて連想するもの」を書いてもらう(※写真1)。他人の書き込みをリアルタイムに見られることに先生方は驚き、面白がります。自己紹介のスライドにコメントし合うのも盛り上がります。研修が終わる頃には、「子どもたちにもやらせてみよう!」と、前向きな笑顔になっています。

写真1:表計算アプリを使った教員研修

簡単なことからでいい。まずは授業で使ってみよう。

渡邉校務でGIGAの「感覚」をつかんだら、見切り発車でいいから授業で使ってみる。簡単なことでいいから、使い始めてみる。これも、GIGA活用に成功している先生や学校の共通点です。

たとえばある若手の先生は、GIGAが入って来た当初、「どんな授業をすればいいかわからない、そもそもChrome bookの使い方さえわからない」と不安と重圧に苦しんでいました。でも「悩んでいても始まらない。とりあえずやらせてみよう!」と吹っ切り、足を踏み出しました。クラウドを使って課題を配布したり、端末で調べさせてプレゼンツールでまとめたり、「今できることをできる範囲で、無理のない活用」を始めたのです。

すると先生よりも先に、子どもが順応しました。端末やクラウドにすぐに慣れ、子ども同士教え合ったり、先生にも教えてくれるようになったのです。そんな子どもたちを見て、「子どもといっしょに学べばいいんだ」と先生も肩の力が抜け、子どもとともにGIGA活用を進めていきました。

「GIGAならでは」の斬新な活用をしなくてはと、気負わなくてもいいんですね。

佐藤簡単なことからでいいんです。今日の授業の振り返りをクラウドで書かせたり、日記を書かせる程度でいい。まずは始めることです。

キーボード入力はGIGAの基礎基本。練習と実践の往復で上達する。

最初の頃、子どもたちが特に苦労するのはどんなことですか?

渡邉やはりキーボード入力ですね。入力が不得手だと、検索するのもまとめるのも、何をするにも苦労します。

キーボード入力のスキルは、GIGA活用に欠かせない「情報活用能力」の基礎中の基礎と言えますね。

渡邉前述の若い先生も、「これはキーボード入力の練習が必要だ」と、「キーボー島アドベンチャー」で練習させ始めました。最初の頃は授業中に練習する時間を設けていましたが、練習する習慣が身についてくると、子どもたちは休み時間や授業のちょっとした空き時間に、自主的に練習するようになっていきました。

佐藤練習させるだけでなく、練習の成果を「発揮する機会」を作ってあげることが大事です。授業の振り返りを端末で入力したり、発見や意見を付箋アプリに書いたり。スポーツと同じで、「素振り」ばかりでは上達しません。練習と実践の往復で、人間は成長します。

渡邉これは本当にそうで、うちの大学にも「小学校の頃にキーボー島アドベンチャーで練習してたけど、キーボード入力が苦手」という学生がいるんですよ。練習はしてたけど、発揮する機会がなかったから、伸び悩んだり、錆び付いたりしてしまったんですね。

練習と実践を繰り返すと、子どもたちはメキメキと成長します。図2は、ある2クラスでのキーボード入力スキルの成長を調べたデータですが、たった数か月で劇的に伸びています。日本の小学生の平均文字入力数は1分間に5.9文字(2013年情報活用能力調査)、高校生で24.7文字(2015年同調査)ですが、わずか数か月で高校生を上回るキーボード入力スキルが身についたのです。

図2:キーボードによる日本語入力スキル調査

子どももまずは「感覚」をつかむ。これが情報活用能力の土台になる。

キーボード入力スキル以外では、どのような情報活用能力を育むべきですか?

佐藤子どもも、まずはGIGA活用の「感覚」をつかみましょう。端末やクラウドで、何ができるのか。どう使えば、学びの役に立つのか。どんなことをすると、問題が起きるのか。「ここにコメントを書くとみんなに見られる」「このデータを消しちゃうと、クラウドから消えちゃう」レベルの感覚からでいい。様々な体験を通して、何度も繰り返し経験して、身体でおぼえるのです。

感覚をつかまぬまま知識を学んでも理解できないし、身につきません。小学校ではまず「感覚」をつかむ。そして中学・高校で、その「感覚」を知識で補強し、体系づけていく。失敗してもいい。失敗することで、「感覚」が磨かれていきます。

自転車に乗る練習をする時に、何度も転びながら「感覚」をつかんでいくのと同じですね。しかし先生は子どもがトラブルを起こしたり失敗するのが怖いので、先回りして指導しなければと思いがちです。

渡邉「子どもが失敗した時こそ、指導のチャンス」です。ある若い先生は、端末の持ち帰りが始まった時、チャットの利用も許可しました。敢えて「チャットしていいのは夜8時まで」程度の緩いルールしか決めませんでした。すると案の定、初日から問題発生。ふざけた書き込みや夜遅くまで利用する子どもが続出しました。その様子を先生はリアルタイムで見ていましたが、その場で注意するのをグッと我慢して、翌日子どもたちに問いかけました。「昨日こんなことがあったけど、どう思う?」と、考えさせたんです。すると子どもたちは、自分の行いを省みて、話し合いを開始。「学習に関係のないことは書かない」「敬語を使う」「使用時間を守る」などのルールを決めました。

自分たちが決めたルールだから、子どもたちは守ろうと努力します。何がいけないのか、どうしていけないのかを身体で学んだので、定着もするし応用も利きます。なにより、目の前の問題を自分たちで解決する力も磨かれます。「問題発見・解決能力」ですね。これは、子どもの人生でとても大切な力です。

将来必要な力は何か。「能力観」が変われば授業も変わる。

佐藤こうやって子どもたちにGIGAを使わせていると、「これからは、どんな力を子どもたちに育むべきか」が、少しずつわかってきます。

先生が指示した通りに活動し、先生がわかりやすく教えてくれるのを待っている子どもでいいのか。テストの点数さえ高ければいいのか。一人ひとりが自分なりの問題を持ち、生涯にわたって自分で学びを進めていけるようになるべきではないのか。GIGA先進校では、そんな議論が盛んに行われ、先生方の「能力観」が大きく変わり始めています。

経済産業省が今年5月に発表した「未来人材ビジョン」でも、社会で求められる能力は、2015年と2050年とでは、ほぼ別物と言っていいほど、大きく変わっています(図3)。

図3:経済産業省「未来人材ビジョン」,2022

「GIGAで学力は伸びるのか?」と気にする先生は多いですが、そもそも従来の「学力」だけでは、これからは不十分なのですね。

佐藤育むべき「能力」が変われば、授業も変わるのが当然です。高校受験のためにと講義型の授業でしっかり教え込んでいた先生が、GIGAをきっかけに意識が激変し、子ども一人ひとりが自分の学びを自分のペースで進めていく授業、自分の課題を自分なりに追究する授業へと変わったケースが、GIGA先進地域ではたくさん見られます。こうした「子ども主導」の授業をGIGA以前から志向していた先生は、端末やクラウドもうまく使えています。逆に、昔ながらの「先生主導」の授業観に縛られていると、GIGAをうまく使えません。

たとえば、「まずは個別に端末で調べて」「さぁ調べたことをグループになって話し合いましょう」と、先生が子どもの学習をすべてコントロールしている授業を、未だに見かけます。端末を使うタイミングや、今何をすべきかまで、先生が細かくいつも指示している。でもGIGAを使えば、一人ひとりが自分のペースで学べるんですよ。なのに「先生が許可した時以外は端末を触っちゃダメ」なんてルールで縛っている学級もあって…これでは、せっかくのGIGAが宝の持ち腐れです。

渡邉そもそもGIGAが整備された理由を、先生方はちゃんと理解しているでしょうか? 「主体的・対話的で深い学び」や、「個別最適な学び」「協働的な学び」といった新しい学び方を実現するには、今までの紙ベースでは限界があるからです。

佐藤もちろん最初は丁寧に指示してもいいんです。初めて取り組むことはお手本を示したり、やり方をしっかり教えたほうがいいでしょう。でも、いつまでもそうするのではなく、少しずつ指示や説明を減らしていく。手離れして、子どもに任せる。学習の「主導権」を、子どもに譲り渡していく。「ああしなさい、こうしなさい」と先生がいつも指示していたのでは、「先生がいないと学べない人間」になってしまいます。

「チャイムが鳴ったら席について学習の準備をする」とか「ロッカーを整理整頓する」とか、学校生活に関する指導では、「先生に言われなくても、子どもが自分でできるようになる」ために、最初こそ口うるさく指導するものの、少しずつ手離れしていきますよね。学習も同じです(図4)。子どもが自分で学習を進められるようになるために、少しずつ子どもに委ねていきましょう。

図4:学校生活ではいつも主体性を育んでいる

新型コロナで学校が長期臨時休業になった時、先生がそばにいないと何もできない子どもたちを見て愕然とし、GIGAを使って子ども主導の学びへ大きく舵を切った学校もあるようですね。

佐藤子どもたちが社会に出た時、どんな力が必要か。受験やテストといった目の前のことだけに目を奪われるのではなく、20年後30年後という長い視点で、子どもたちに育むべき「能力」を考え直しましょう。そして、そうした能力を育むには、どんな学校教育を行うべきか。改めて問い直す時が来たのです。

教育委員会も行政もGIGAの目的を理解しよう。

佐藤ここまで我々が話してきたことは、教育委員会や行政の方にも、耳を傾けてほしいと思います。GIGAをうまく使っていくには、教育委員会や行政による体制づくりやルール整備も、不可欠だからです。

渡邉持ち帰りを禁止したり、クラウドの利用を厳しく制限したり。まだ、端末を3台同時に接続しただけで、ネットワークがパンクしてしまう学校があると聞いています。

たった3台で?… 笑えない話ですね。

佐藤令和4年度の全国学力・学習状況調査によると、「端末は勉強の役に立つ」と答えた子どもは9割を超えています。なのに、端末をほぼ毎日使っている学校は2割程度にとどまっています。端末を持ち帰っている学校も6割強。中には、「持ち帰ってはいけないことにしている」「臨時休業の時だけ持ち帰らせる」なんて学校もあります。GIGAはコロナ対策のためだけに整備されたのではありません。子どもたちの未来のために、整備したんです。

本当は持ち帰らせたいけど、できない学校もあるので、自治体として一律禁止にしているケースもあるようですね。足並みを揃えなければ、という意識が働いているのかもしれません。

渡邉大事なのは、足並みを揃えることではなく、みんなが同じ方向を向くことです。GIGAを使って、子どもたちの将来に欠かせない力を育むという共通の目標に向かって、みんなで歩む。向かうゴールさえ同じであれば、歩みの速度は違ってもいいんです。

佐藤保護者にも助力をお願いしたいですね。何のために国はGIGAを整備したのか。子どもたちにどんな力を育もうとしているのか。保護者も理解して、学校を見守り、力を貸してほしいと思います。

先生も子どもといっしょにGIGAを楽しもう!

最後に、先生方へのメッセージをお願いします。

佐藤GIGAでうまくいっている学校は、先生も子どもも、毎日を楽しんでいます。

子どもたちは、端末を使って学ぶのをとても喜んでいますし、自分が学びたいことを、友達と協力したりしながら学ぶのを楽しんでいます。そんな姿を見て先生は驚き、「次はこんなこともやってみよう!」と、どんどんアイデアが湧いてきて、チャレンジしています。「今までやりたかったけどできなかった授業が、GIGAのおかげで可能になった!」と、喜んでいます。

もちろんうまくいかない時もあります。これはダメだと思ったら止めて、別の方法を考えればいいんです。GIGA先進校は、こうした試行錯誤も楽しんでいます。

渡邉子どもも先生も、教育委員会も行政も、GIGAを楽しみましょう。楽しみながら挑戦を続ければ、必ず道は開けます。

渡邉 光浩

鹿児島女子短期大学 児童教育学科 准教授

宮崎大学教職大学院 修了、教職修士(専門職)
宮崎県公立小学校・教諭、鹿児島女子短期大学・専任講師(2018ー)を経て、2021年4月より現職。
文部科学省ICT活用教育アドバイザー(2022ー)、鹿児島県 かごしま「教育の情報化」推進連絡協議会委員(2020ー)等。

佐藤 和紀

信州大学 教育学部 准教授

東北大学大学院情報科学研究科・修了(情報科学)
東京都公立小学校教諭・主任教諭、2017年4月より常葉大学教育学部・専任講師を経て、2022年4月より現職。
文部科学省 GIGA スクール構想に基づく1⼈1台端末の円滑な利活⽤に関する調査協⼒者会議 委員(2021ー)等

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