授業実践リポート ICT活用&情報教育

熊本県 山江村立山田小学校

全員が考え、発信し、学び合う、子どもが

主体となって活動する授業を目指して

タブレットPCや電子黒板を活用した授業改善への取り組み

 

6年生 社会科

「日本国憲法には、どんな特色があるの」

2015/07掲載

 熊本県を代表するICT活用先進校のひとつ、山江村立山田小学校。同校は「夢に向かって2020年まで」という標語をかかげ、ICT教育の取り組みで熊本県の拠点になることを目指している。平成23年度文部科学省の「ICT教育活用好事例」調査研究事業の委託をきっかけに、「ICTを活用した未来の学校創造プロジェクト推進事業」(熊本県教育委員会)の研究校指定として活動している。
 今回、ICTの効果的な活用がどのように授業改善に結びついているのか、6年社会科の授業を見学させていただき、藤本誠一校長と樋口勇輝先生にお話を伺った。

少人数グループでの話し合いで活性化する授業

子どもたちのタブレットPCから回答が送信される。

熊本県内の衆議院投票率の推移を見せて「何が問題ですか?」と問いかけた。子どもたちからは「はい」と、勢い良く手が挙がる。

 樋口勇輝先生は、先ず、前時までに学習した日本国憲法の理念や3つの柱について振り返る。子どもたちは、『課題別グループ』ごとに「国民主権」、「基本的人権の尊重」、「平和主義」について資料(プレゼン)にまとめあげているので、先生の問いかけに元気良く手を挙げる。先生は次に「国民は、日本国憲法の考え方通りに現在の社会が動いていると思っているでしょうか?」と問いかけた。早速、子どもたちは、今日の授業で組んでいる『学習グループ』ごとに話し合いをし、タブレットPCで回答する。集計結果は、即座に「思っている」、「思ってない」の割合が円グラフで電子黒板に提示された。「思ってない」という回答が多い。さらに、先生は一般の人を対象にした回答結果を表示し、同じように「思ってない」人が多いことを示す。クラスの友だちや一般の人の意見を知ることで、身近な問題だという意識が生まれる。さらに「どうして思ってない人が多いのか」についてグループで話し合わせ、集団的自衛権の問題、投票率の低下などの様々な問題に共通意識を持たせた。

話し合いは、自分の考えの根拠をしっかり持って

「社会科学習シート」に、自分が考える重視すべきものの度合いを記入して円グラフにし、自分の考えを記入する。

『課題別グループ』で調べてまとめた資料を根拠に『学習グループ』で自分の考えを説明する。

資料はわかりやすいように工夫して作られている。

憲法の3つの柱ごとに貼り出されたホワイトボード。

 先生は、本時の「めあて」として、「現在の日本の問題と日本国憲法の働きについて考えよう」と板書する。話し合いのテーマは、「今の日本にとって、『国民主権』『基本的人権の尊重』『平和主義』のどれを一番重視すべきだろうか」。あえて、「一番重視すべきもの」を出させることで、より深く考えさせるのが目的だ。

 「国民主権とか平和主義など、言葉だけが飛び交うようでは意味がありません。自分の資料を根拠にして、練りあげてください」と先生は指示する。早速、グループごとに「私は、○○が一番だと思います。理由は・・・」と話し合いが始まった。

 20分ほど活発な話し合いがなされた後、グループの結論は小型のホワイトボードにまとめられ、黒板に貼り出された。こうすることで、どういう理由で、何を一番重視すべきと考えているのか、一目でわかる。

 先生は、なぜその結論にいたったかをグループに問いかけ、クラス全体で考えを共有した。

学習の振り返りを、「日本国憲法新聞」にまとめる

新聞づくりはタブレットPCにキーボードを接続して。

 最後の5分ほどの時間は、自分の考えを新聞記事としてまとめる時間。「新聞づくり」は、単元を貫く言語活動として毎時間設定されている。その日の学習を振り返り、新聞に簡潔にまとめることで、自分の考えの深まりが実感される。

 この後、地域の方々へ日本国憲法に対する考え方を聞き取り調査に出向き、「子どもニュース」にまとめられ、発表される予定だ。

「話し合いの軸」を明確にする発問が大事

6年1組 樋口 勇輝 先生

 「子どもが主体となって活動する授業を目指しています」と樋口先生。今日の授業でも、クラス全員の子が積極的に自分の考えを話し、活発な話し合いがなされていた。

 大事にしているのが「子どもがしっかりと考えられる発問、思考をゆさぶるような発問であること」。先生によれば「『日本国憲法で大事なものは何ですか?』と言う発問では、漫然とした話し合いにしかならない」と言う。だから「どれを一番重視すべきと考えますか?」と問いかけた。「話し合いの軸を明確にすることで、活発な意見、主体的な活動が生まれる」と考えるからだ。

 樋口先生が、ここで注意しているのが、表面的な話し合いにならないようにすること。「分かった気、思いつきにならないように、自分の考えの根拠になる資料をきちんと相手に示して、説得することが大事」と力を込める。

学びを引き出し、協働的な学びを実現し、学びを振り返るICT活用

 樋口先生は、授業の中でICTを活かす3つの工夫を挙げる。

 まず、子どもの学びを引き出す「課題提示」の工夫。現在の日本の問題点を示す資料を提示することで課題意識を持たせ、子どもたちの学びが生まれるようにする。その時、電子黒板の拡大提示による説明や書き込みで、課題への焦点化を図る。

 次に、子どもの学びを広げ・深める「考えの共有」の工夫。今までは、同じ課題を時間内に取り組む一斉学習しかできなかったが、タブレットPCにより、自分の意見・資料を持ち寄り伝え合うことで「考えを共有」し、一つのものを作り上げる協働的な学びが可能になる。

 最後に、子どもの学びの姿が見える「言語活動と評価」の工夫。先生は、授業の最後数分を、自分の考えを新聞記事としてまとめる時間にあてている。今までのように、単元の最後に新聞を作るのではなく、今日学んだことは今日まとめるようにしている。「個人で考え、集団で練り上げて終わりではなく、もう一回、個人で振り返ることが大事です。初めの考えから、集団での学び合いを通してどう変わったのか、児童自身も教師も見取ることができるようになりました」と樋口先生は言う。

タブレットPCにより、普通教室で新聞の作成が可能になったことが大きい。

ICTの活用で身に付いてきた「グループ思考の活性化」

 最初は、自分の考えをただ発表するだけだった子どもたちも、根拠をもとに伝えるようになり、さらに相手の考えをもとに再構成して説明する力をつけ、今では経験やものの例を用いて相手を説き伏せる、そういう力が少しずつ身についてきた。「タブレットPCを使うことで、コミュニケーション能力やプレゼン能力が高まっています」と樋口先生は子どもたちの成長を感じている。

ICTを使うのは、授業改善のため

校長 藤本 誠一 先生

 山田小学校では、全員がICTを活用して授業をしている。「使わざるをえない状況に私がしたんですよ」と藤本校長は笑う。「指導力のある先生ほどICTを使えばもっと授業が良くなる」と続ける。指導力のある先生は、発問にしても、指示にしても的確。だから、そういう人がICTを活用して授業をすれば「すごい効果が上がる」。樋口先生も最初は、初めて電子黒板を見たというところからスタートし「使わざるをえない状況の中」で成長した。しかし、ICTを使うことが目的ではない。どこでどう使ったら良いか、適時性をしっかり見極めてやっていかないと授業自体が良くならない。「ICTはあくまで道具。ICTを使うのは、授業改善のため」と藤本校長は言い切る。

保護者、地域の方を味方につけて

 ICTの整備には、保護者と地域の人たちの理解が欠かせない。山田小学校では、毎月15日の学校開放日(学校に行こうデー)や授業参観の日には必ずICTを活用した授業をした。保護者や地域の人たちは、「あんなすごいことをしてうちの子は発表している」と目を丸くして驚いた。さらに、授業の様子を、地元のケーブルテレビでながし、家庭でも視聴できるようにしている。今では、保護者の方、地域の方が、ICT推進の強力なサポーターになってくれている。「地域を動かす、保護者を動かす。その努力が校長の仕事です」と藤本校長は言う。

大切なのは、子どもと向き合う時間

ICT教育の推進で「山田小ブランド」の確立を目指している。

 藤本校長が進める山田小学校のICT教育の推進は、授業の中だけにとどまらない。

 校務支援システムを積極的に取り入れることで、校務処理に関する時間の大幅な削減が実現できている。削減できた時間は、子どもと向き合う時間にあてている。そうすることで、子どもの悩みやいじめの問題などが解決していくという。

 通知表コンテスト(校務情報化支援検討会)の最優秀賞受賞は、藤本校長の「校務を効率化し、子どもと向き合う時間を確保したい」という強い思いによるものと、理解できた。

 電子黒板やタブレットPCによる「授業改善」。校務支援システムによる「校務の効率化」。山田小学校では、4年前にゼロからスタートしたICTの活用推進が、着実に成果を挙げている。

昨年は、校務情報化支援検討会による「第3回校務支援システムによる通知表コンテスト」の最優秀賞を受賞されている。
レポート

山江村立山田小学校「ひとくちメモ」

山田小学校がある山江村は球磨郡の西北部に位置し、のどかな田園風景と緑豊かな山々に囲まれ、豊かな自然に溢れている。創立は1874年(明治7年)と140年以上の歴史を誇る、由緒ある小学校である。

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