インタビュー&コラム

Interview

堀田龍也先生

情報教育から各教科学習へのアプローチ

独立行政法人メディア教育開発センター
研究開発部 助教授
堀田 龍也

(2006/10掲載)

 2001年より「e-Japan戦略Ⅰ、Ⅱ」として、政府のIT戦略本部が推し進めてきた重点計画においては、学校教育分野においても、「ITのメリットを最大限活かした授業の実現」などの目標を掲げ、諸施策が講じられた。
 現在においても、これまで推し進めてきたIT基盤整備・IT利活用重視を踏まえつつ、「IT新改革戦略」としてさらなるITの構造改革力の追求を掲げている。
 文部科学省においては、この重点的取組課題の1つとして挙げられている「教育の情報化」への対応として、「初等中等教育における教育の情報化に関する検討会」を設置し、学校教育の情報化についての検討を行っている。
 今回、同検討会委員でもある、独立行政法人 メディア教育開発センター助教授・堀田龍也先生にお話を伺った。

 

―――「初等中等教育における教育の情報化に関する検討会」での活動についてお聞かせください。

堀田 e-Japan重点計画に掲げられた目標である、IT環境整備において、高速インターネットに接続されている学校の割合、教育用PC1台当たりの児童生徒数とも増加しています。満足できる数値ではありませんが、今後も引き続き推進することが必要です。
 この検討会は、そういった学校の情報化における基盤、いわゆるハード面での整備目標だけを掲げて達成する事を意としているわけではなく、重要なのは、その先にある、1人1人の教員が効果的にITを活用できるようになってもらうにはどうしたらよいのか、そして、子どもの力をどうつけさせていけばよいのか…その仕組み作りについて意見交換を行っています。

 

堀田龍也先生

―――IT環境整備の指標として、コンピュータを使って教科指導等ができる教員の割合も挙げられています。

堀田 はい。この数値も数年前に比べると着実に増加しています。
 しかしながら、整備されたIT環境を実際に教員が活用することが必要といわれていますが、まだ、IT活用を特別なものとして敬遠する先生方も多くいます。
 しかし、子どもたちの情報活用能力の育成を念頭に置いた“情報教育”は、小・中学校において、すでに平成14年から全面実施されている現行の学習指導要領に基づいたものとして、実施する必要があることは言うまでもありません。また、各教科等の目標を達成する際に効果的な“IT活用”は、魅力ある授業、分かる授業を実現するための新しい方法論です。そしてその実現のために役立つものであり、我が国の学校教育のために必要な、決して「特別なもの」ではないとの考えを認識していただく必要があります。
 一般社会におけるIT化の進展を見ていただければお分かりの通り、ITを活用しないオフィス環境などは無いといっても過言ではないでしょう。“教師”であるからこそ、特に認識すべき点です。
 これまで私自身が行ってきた、その啓蒙のための活動も継続していかなければならないと考えています。

 

 

―――「ITを活用した指導」ができる先生の中でもその理解度については、差があるのが現状ですね。

堀田 「ITを活用した指導」ができるといっても、“学校教育の情報化”を理解した上で本当の意味で効果的な活用をされ、指導できている先生は、まだまだ少数だと思います。
ここで今一度整理しておきたいのですが、“学校教育の情報化”の意義は、「情報化をすることによって、児童生徒の学力を向上させることができる」ことです。その概念に含まれる教育が、“IT活用”と“情報教育”の両面なのです。
 その教育を実施する上で前提となる「ITを活用した指導力」は、当然のことながら、“学校教育の情報化”のこの両面の目的達成に大きく影響します。
 各教科等における“IT活用”において、まだ多くの先生は、無理やりITを活用しているに過ぎず、本来その目的であるところの『分かる授業』の方向を向いての上手な使い方が実現できていないのが現状だと思います。IT活用により教育が如何に変わるか…授業の目的を達成する為に、ツールとしてその特性を活かした上で、最大の効果“子どもたちの理解度の向上”を高めるにはどうしたよいのか、常に模索する意識が必要です。
“IT活用”はあくまで手段ですので、黒板や模造紙など既存のツールを使っても実現できるものであるかもしれません。
 しかし、ITを効果的に活用することにより、子どもたちが確かな理解が得られ、より効果的な授業が実現できる状況があるとするならば、それを選択しない手はないでしょう。
 また、学習指導要領に基づく体系的な“情報教育”の側面においては、各教科等の指導を行う先生が、自ら指導する内容の中にも「子どもたちの情報活用能力の育成」を念頭においた“情報教育”が含まれていることを認識しつつ教育をすすめる必要があります。 その実施に,子どもたちがITを活用して学習することは避けて通ることはできません。子どもたちにとっては情報機器の整備等と同じく、必要なインフラの1つなのです。

 

堀田龍也先生

―――しかし、“情報教育”という観点から、各教科学習における学習場面をイメージすることは難しいのでは?

堀田 今では“情報教育”の必要性はあらためて論じるまでもなく、先生方共有の認識になっていますが、“情報教育”の内容を各教科学習の中において学習場面をイメージすることは、どのような学習場面で、どう扱ってよいか、わからない先生も多くいると思います。
 そこで、「初等中等教育における教育の情報化に関する検討会」においては、小学校・中学校・高等学校それぞれにおいて、『初等中等教育における情報教育に係る学習活動一覧』を作成しました。

 

 

―――この表は“情報教育”の目標から分類して、その3つの観点から各教科・単元での学習活動のイメージが具体的に示されていますね。

堀田 これは、「情報活用能力」の具体的な内容が何であるかを検討し、小、中、高等学校の全ての学校段階において、教科等をできる限り網羅的に捉え、情報教育に係る学習活動の例を抽出し、それが情報教育の体系の中でどのように位置づけられるかを一覧にしたものです。
 文部科学省のWebサイトに掲載されていますので、是非ご覧いただきたいと思います。

 

(資料)

初等中等教育における教育の情報化に関する検討会  文部科学省サイト内

情報教育の目標で分類した学習活動一覧(小学校段階・中学校段階・高等学校段階)

 

堀田 龍也 先生 プロフィール

堀田龍也先生独立行政法人メディア教育開発センター 研究開発部 助教授

【略歴】

1964 年熊本県天草生まれ。東京学芸大学教育学部卒業。電気通信大学大学院博士前期課程情報工学専攻修了。修士(工学)。東京都公立小学校教諭,富山大学教育学部助教授,静岡大学情報学部助教授等を経て現職。東京大学社会情報研究所客員助教授(2001.4-2002.3),東京大学大学院情報学環ベネッセ先端教育技術学講座客員助教授(2005.4-2006.9),現在同講座フェロー。文部科学省参与(初等中等教育局情報教育参事官付)を併任。2006 年度は,東京大学大学院情報学環「情報教育論」,富山大学教育学部「授業システム論」,聖心女子大学文学部「教育メディア論」の講義を担当。
【主な研究分野】
教育工学,情報教育,学校の情報化のインパクト。特に小学校における情報化に伴う教育内容・教育方法の開発,授業・カリキュラム開発,学習環境設計,教員研修等。教育の情報化関連企業との共同研究多数。

 

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