インタビュー&コラム

Column

ITでもっと技術科!(2)

三重大学 教育学部 技術教育研究室・助教授
村松 浩幸

(2004/07掲載)

中学校技術・家庭科技術分野(以下、「技術科」)の教師の経歴をもち、現在三重大学教育学部にて技術教育の研究をされている村松先生に、全3回にわたり、技術科における“ものづくり”の魅力とIT(情報技術)の必要性について語っていただきます。

 前回、「ITでもっと技術科!」と題して、「IT始め様々な技術に支えられている今の社会だからこそ、ものづくりに感動をし、ITを自らのものとしていき、技術から社会を見ることができる力」が必要だと書きました。今回はこのことについて、また少し違った視点から書いてみたいと思います。

 

 

 

 

ちょっと視点を変えてみることで・・・

 昭和37年に始まった技術科の学習指導要領の変遷や取り上げられた題材例を見ていくと、技術科は実に社会の変化や技術の変化の影響を受ける教科だと痛感します。例えば、40年程前は真空管を使ったラジオ(今では真空管を使ったアンプなど高級品ですが)といった製作題材例がありました。それが今や手回し発電機付きのICチップのラジオが人気だったりします。技術の進歩は大きいですね。

 ところが、 この題材例を見ていくと毎回出てくるものがあります。皆さんは何だと思われますか?それは本立てなのです。たぶん皆さんも経験がある題材ではないかと思いますが、いかがですか。
 近年は金属やプラスチックなどの材料も使われますが、基本的には今でも技術科教材の王道?です。この本立てを通じて様々な実践が行われました。もちろん筆者も授業で取り上げました。しかし本立て製作には批判もあります。日曜大工と変わらないじゃないか、といった批判。生徒からは”買った方が安いじゃない”何て声が出ることもあります。

 もちろん本立てを超えるようなダイナミックな実践ができればそれは素晴らしいことだと思いますが、本立て作りは今や時代遅れの実践なのでしょうか。実は、ちょっと視点を変えてみることで同じ本立てでも学習の深まりが違ってきます。具体的な実践を紹介します。

 

技術科で商品開発を疑似体験

 京都の沼田先生が行われた「売り込む棚づくり」という実践。これは、家族をお客様にして必要とされる機能や大きさを「市場調査」。それを元に“お客さんのために商品を作る”という意識で製作、最後に製作した商品の売り込み広告を作り発表会、さらにお客様に商品の感想をもらうという実践。作っているのは同じ本立てや棚だったりするのですが、実際の社会の中で行われる商品開発を疑似体験するのです。この実践はその後ITと結びつき、広告部分をプレゼンテーションにした滋賀の田渕先生の実践に発展しました。目的が明確かつ、プレゼンテーションにすることで広告がデジタルデータとして保存したり、お互いに見あえるのも大きなメリット。

 私もまねてやってみましたが、生徒達は結構はまりました。一番決定的だったのは自分のものでなく“相手のために作る”ということ。使用目的に応じて設計しなければいけないし、いろいろ考える必要が出てくる。できた作品はデジカメで撮っては喜んで広告に仕上げていました。同じ本立て作りであっても、相手を意識させることでものづくりに奥行きや広がりが出ます。それがITによりさらに加速されるのです。単に作らせるのと、相手を意識して作らせるのでは学び取る内容にも大きな違いが出てくるし、この学習で学んだことは社会でも役に立つのではと思います。

 

 

 

相手を意識することで技術の見方が変わる

インターネットの影響や影の部分について議論されている昨今ですが、画面の向こうの“相手”を意識できれば、トラブルの多くは解決するのではないでしょうか。ものづくりやIT活用は何も最先端を追うことばかりではないと思います。それ以上にITを使って子ども達にどんな力をつけさせたいのかが大切ではないでしょうか。

 次回の最終回はITそのものを教えることについて考えてみたいと思います。

 

ITでもっと技術科!(1)

ITでもっと技術科!(3)

 

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