インタビュー&コラム

Column

ITでもっと技術科!(3)

三重大学 教育学部 技術教育研究室・助教授
村松 浩幸

(2004/08掲載)

中学校技術・家庭科技術分野(以下、「技術科」)の教師の経歴をもち、現在三重大学教育学部にて技術教育の研究をされている村松先生に、全3回にわたり、技術科における“ものづくり”の魅力とIT(情報技術)の必要性について語っていただきます。

 前回は「本立て」を例に、子ども達にどんな力をつけたいのかが大切という話を書きました。そしていよいよコラムも今回で最終回。今回は技術科でITを教えることついて考えてみたいと思います。


10年後役立ちますか?

 前回の学習指導要領の改訂時は私もまだ教師になって間もない頃でした。当時新しくスタートした情報基礎領域は試行錯誤の連続です。まだPCといえばハードディスクなんて搭載されておらず、フロッピーだけで動いてました。先生方も「情報基礎の何を教えるの?」という議論があちこちでされました。
 例えばフロッピーを扱う場面。Windowsの前のOSであるMS-DOSでフォーマットやコピーの命令を一生懸命教えたり、解説テキスト作ったりといった実践もありました。しかし今になってもう一度振り返ってみるとどうだったのか。
 MS-DOSはWindowsに変わってしまい、コマンドを使うことは一般にはなくなってしまいました。フロッピードライブを持たないPCも多いです。あの当時やったことの多くは今は使われなくなってしまったのです。しかしフロッピーを取り上げたことは無駄だったのでしょうか。
 これも前回の「本立て話」ではないですが、何を教えるのかの問題だと思います。教えた内容がフロッピーの扱いやコマンドの使い方ではなく、「ディジタルデータの特徴」だったり「ファイルとは?」のような切り口だったら、フロッピーが主流でなくなった現在でも通用した内容だったのではないのでしょうか。
 今使っているハードやソフトが移り変わっても通用する内容こそが本当に教えるべき内容なのではないかと思っています。
 今、先生の教えられていることは10年後役立ちそうですか?

 

 

実物が動く感動!

 ITそのものを教える際に、どうしても私が外せないのが実物を動かす制御です。私自身が開発に携わった自動化簡易言語と制御セットを使って 、PCにつないだ車を動かす制御を始めたのが10年前でした。この授業で毎回生徒から驚きの声が上がるのが、自分の作ったプログラムで車が動き出した瞬間です。昨年も生徒達から歓声が上がりました。生徒達は驚く程高性能なゲーム機で3DのすごいCGを見慣れてますが、こうした実物が動く事は驚きなのでしょう。「車が動くなんてビックリした」「課題を解決するためにあれこれ試すのがとても面白かったし、できたらうれしかったなー」etc生徒達の感想の一部です。
 これを軸に様々な自動化の課題やアルゴリズム、現実社会のITの役割を通信技術との関わりも入れながら学んでいきます。
 10年前の開発当時、プログラムといえばBASICでお絵かきなどが主流でした。しかしコンマの忘れや入力ミスなどで動かなかったり、作って絵が動いてもどうなの?と思っていました。逆に制御といえばかなり高度、マニアックなイメージが強かったです。そこで命令の入力を選択式にしてアルゴリズムを学ぶことに特化させました。簡単にプログラムが作れるだけでなく、生徒が課題そのもので試行錯誤できるように学習展開をデザインしたのです。
 この学習の最も重要なポイントは、単に制御プログラムが簡単にできただけでなく、社会の中でプログラムがどんな役割を果たしているのか 、ものづくりとコンピュータがどう関わってきたのかを学ばせることにあります。まとめの方でよく使うのが炊飯器の開発を紹介した番組。マイコン制御のプログラムを開発した女性の方が「みんなお母さんが炊いてると思ってるけど、実は私がプログラムしたんですよ」というシーン。生徒達は実物を制御してきたことで実感を持って理解できます。
 中学校の技術科ではプログラマーを育てるわけでもありません。逆にプログラムが社会でどんな役割を果たし社会をどう変えてきているのか 、それに関わっている人達はどういう仕事をしているのかを理解することは子ども達にとって必要なことだと思っています。そしてITの発達と共に情報通信ネットワークもプログラムと共に非常に重要な内容になってきているといえます。
 10年を経て、当時作った自動化簡易言語の制御プログラムソフトは、Windows版になったり、ネットワークや自律型への対応、USBでの制御など時代に応じた機能拡張がされてきました。でも基本設計は変わりません。10年経っても使い続けられる教材というのは密かな自慢でもあります。

 

 

技術は人間が使うもの

 制御についてはロボットブームや安価なマイコンチップが出てきたおかげで、PCからマイコンにプログラムを転送し制御させる自律型制御の教材があちこちで開発されたり、取り上げられています。それ自体はとてもいいことだと思うのですが、やや心配なことがあります。それは言葉が良くないですけど実践や開発が”技術自慢”に終わっているものが多いと感じることです。制御すること自体が目的になってしまって、前述のような”何を教えるのか”があいまいになってしまっている。
 PCもOSもマイコンも最新のものだけど、肝心の教えるべき中身は10年前のBASIC実践と大差ない・・・技術に振り回さず、教えるべき中身をしっかりと持つべき。これはコンピュータの活用とも通じます。自戒も含め大きな課題です。

 技術は人間が使うもの。人間が技術に振り回されては本末転倒でありましょう。同時に技術は人間の持つ素晴らしい文化であり、財産です。その素晴らしさを多くの子ども達に伝え、明日の社会を創ってくれる世代を育てたいと願っています。ここをお読みいただいた技術の先生方、教材等で技術の授業に関わる方々。皆さんはそれだけ大切なことをされているのです。胸を張って自信を持って日々の実践、仕事に取り組みましょう。私もぜひ先生方と共に頑張っていきたいと思っています。
 ここまでお読みいただきありがとうございました。

 

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